故人を偲んでいるはずなのに、会場には悲しげな顔をしている者が一人もいない。おまけに出席者は皆、アロハシャツ姿だ。かく言う僕も、パイナップル柄の真っ赤なアロハを身につけている。入口で手渡され、着るように頼まれたのだ。ダークグレーのスーツから、少し防虫剤の香りのついたアロハに着替えると、自然と社長との思い出が心に浮かび、頬がゆるむ。たぶん、みんなそうなのだろう。だから、笑顔なのだ。お葬式ではなくお別れの会。その意味が少しわかったような気がした。

学生時代にバイトをしていた古着屋の社長が亡くなったのは一か月ほど前のことだった。お葬式は身内だけで行なわれ、世話になった社長に別れを告げる機会がないのを残念に思っていたところ、この“お別れの会”の案内をもらった。跡を継いだ息子さんは、僕が働いていたショップの店長だった。

社長と同年代のご年配の方々から僕のような若造まで、友達、社員、仕事仲間、お客さん、社長と縁のあった人たちがこうして揃い、同じ格好で故人を偲ぶ--このユニークな会そのものが、店長からの社長へのメッセージなのだろう。遊び心にあふれたあなたの魂は、僕が受け継いでいきますよ、という。

遺影が飾られた祭壇に献花し、正面の大型スクリーンへと目を向ける。映し出されているのは在りし日の社長。トレードマークのアロハシャツが日に焼けた肌に似合っている。ハワイに買いつけに行ったときに撮ったのだろうか、褐色の美女の隣で珍妙に腰を振っている。
会場からどっと笑い声が上がった。

社長から教わったことはいろいろあるはずなのに、今思い出すのは、いくつになってもガキみたいだったあの笑顔と、たった一つの言葉だ。その言葉をかみしめていると鼻の奥がつんとしてくる。涙がこぼれないように顔を上げる。と、店長がマイクの前に立ち、話しはじめた。「父の最初の商売は大失敗でした。百着仕入れて売れたのはたったの五枚。残りの九十五枚は、今日さばけました。父の失敗の後始末、皆さんにお願いしますね」

わいた会場が静まるのを待ち、店長は再び口を開く。「皆さんは、父の口癖を知ってますよね。父が大好きだったこの言葉で、僕は父を送りたいと思います。よければ皆さんもご一緒に」

会場のみんなが声を合わせ、言った。

“さようなら” “ありがとう” “愛してる”という意味の、世界で一番シンプルで美しい言葉を--。
「アロハ!」

(文・蒔田陽平)